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ここは架空の書房です
![]() きょこさま 絵を描いてくださいました *はじめましての方へ 今 「春から夏のものがたり」 を書いています 「冬のものがたり」 を ものがたり順に 読めるようにしました よろしければこちらから どうぞ → 四季編 ものがたりと書評をミックス させたものを書いています この書房にやってきた本は まだ迷子のよう。時々名前を 呼んであげないとね * このブログ内の 文章、画像、写真などの 無断使用、転載、複製は しないで下さい。 copyright-coton *別館 → コトコト! ![]() ↑ 挿絵をお借りしています ++だいすきリンク くらしのレシピ Favorite Blue どんなときも♪ 水辺の物語詩 treasure box やさしい時間の記録Ⅱ ![]() 以前の記事
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海から帰った 次の朝、目覚めると
モユルが 腕組みをして 立っていた ぼくと カイルが 黙って 海に行ったことを 怒っているらしい 日焼けで 赤くひりひりした顔を 洗っていると、 とことこやって来て もう一度 行こう、今日! と言った ![]() そこに、エミルが 大きなバスケットをもって 入ってきて、出発ね! と言った ぼくと カイルは 自転車を 漕ぎすぎて くたくたの足を 引きずりながら 一緒に 駅まで歩いて、列車に乗った 今日は、ゴトゴト ゆっくり海へ 進んでゆく ほてった顔に 少し 冷たくなった風があたって ここちよかった 玻璃の森にも 秋が やってくる 砂浜で、女の子が 気に入りそうな 貝殻を 探した カイルは 大きな 海草の日干しを がさがさ 引きずって モユルを 追いかけていた 小さな 桜色の貝や 白くて 細長い 巻き貝を エミルは 気に入って ミミにあてる 仕草を した かわいらしかった パラソルの下で、エミルが バスケットを開けた ロールサンドが くるくるくる ふと見ると、一つだけ、何も はさまっていない もちあげると、なにやら もこっと 重い そこに、コリスのルウが ねていた ちいさな密航者は、ふかふかのパンの布団で すやすや 眠ってしまったらしい たくさんの 視線を感じて ルウが びくっとして 起きた そして 急いで ぼくのシャツの中に かくれた エミルが はちみつのタルトを 一つ切って ぼくの襟元に 差し出すと ルウは はずかしそうに 両手をのばして ぼくの 胸のあたりで もぐって たべたので くすぐったくて しかたなかった モユルが、エミルの後ろに回って ふいに 髪のリボンを といたふわりと はちみつ色の髪が 広がって まるで やさしい 太陽のように ひなたの香りを まき散らした いつも 束ねているから こんなに長いって 知らなかった モユルは いとおしそうに エミルの髪を 三つ編みにして 遊んでいた 波は 夕刻の陽をうけて 光輝き まぶしすぎて 目が開けられなかった ぼくは 砂浜に 寝ころびながらそんな 二人を 見ていた レモネードの 氷が熔けるのを 太陽に 透かすふりをして エミルの ふわふわした髪に 見とれていた ぼくの胸には、ルウがつけていった はちみつの甘い香りが ずっと 残っていた こうして 夏が 通り過ぎていった ![]() 今日の1冊 「リリィ、はちみつ色の夏」 スー・モンク・キッド著 先日 装幀に惹かれて、うちの本棚にやってきた本 1964年、サウルカロライナ。 14才の リリィの夏 はちみつが どんな風に出てくるか、楽しみな1冊 ++ お 知 ら せ ++ 夏の間、ぼくらは よく働いた
「クラフティ・クララベル」 は この街に 移転したのを 惜しんで たくさんのお客さんたちが 夏休みに 訪れたから お菓子の学校から 帰省した エミルは 一日中 キッチンで パパンの 手伝いをして たくさんの お菓子を 焼いていた 彼女は ふわふわメレンゲが 得意 モユルは カフェの 手伝い カイルは ジェラートを すくう係 カフェに 入りきれない お客さんや クウヘンさんの珈琲と クララベルのケーキを 一緒にという リクエストが多くて 玻璃の音*書房も 目が回っていたから ぼくは ケーキを 運んで 書房と クララベルを 行ったり来たりした ぼくの本や、書きかけの断片を 読んで よく そのまま 眠ってしまっていた 夏の終わりに やっと訪れた 小さなやすみに ぼくと カイルは 海に行くことにした 朝早く起きて、山を越えて お互いに負けまいと、すごいスピードで 自転車を漕いだ どこまでも 続いていくような ゆるやかなカーブの 坂道を 下りはじめると きらきら まぶしい 波が 見えてきた 海に行ったことがないと 思っていた ぼくは 波の音を 聞き、潮の香りを 吸った瞬間 何かが あざやかに 胸に広がるのを 感じた ぼくは 巻き貝になったかのように 記憶の断片が 大きな渦を巻いて 流れ込んできた それは、貝の記憶 ちいさな頃、ぼくは 確かに 海にいたまるい ちいさな 白い貝を 拾って 大切に 手のひらに 転がして 家に帰った その貝は、本にはさんで 栞にしていた ある日、貝は 粉々になった ぼくの中に あふれだした 記憶 あの日の 父や母の ぼくを 呼ぶ声 やわらかい 母の笑顔 なつかしくて、なつかしくて、涙が 止まらなくなった 自転車を もっと 早く 飛ばした 涙を 振り切るように 砂浜に 着いて、急いで 走っていって 波をすくって、顔を洗った 波と 涙が 一緒になって 溶けてしまえばいい 波に 手と足を さらわれて 膝をついたら 大きな波が やってきた 体にあたる 衝撃に、また 涙が出そうになって あわてて 大声で わぁーと 言ってみた カイルも 駈けてきて、波につっこんだ ぼくらは、うさぎのように はね回って 砂浜のあちこちに、自分の靴跡を つけた こんなに 笑った 夏はなかった 心から 楽しかった カイルが いるから カイルが 抱えているものの 重みを知ったのは、もっと あとのことだった いつも 太陽のような 彼が どんな思いで いつも 笑っていたか そして、ぼくは もっと大切な 何かを 思い出さなくては ならないことに 気づいていた 帰り道は、登り坂だということを ぼくらは忘れていた 足が 疲れて ガタガタになって 途中で さかさまに 転がりそうだった なんとか 家に 辿り着き、床で ばたりと倒れた ![]() 今日の1曲 「Blue Pacific 」 マイケル・フランクス Michael Franks 夏の終わりに、聴きたくなる曲たち 少し 熱をもった 気だるさが ここちいい 同時に、ココロに 浮かんでくる詩 「私の耳は 貝の耳 海の響きを なつかしむ」 これは、ジャン・コクトーの詩 フランスの海岸には、彼の あたたかい国の水夫たちの絵がある ![]() ぼくは こういう競技が すきだ 走る、飛ぶ、自分だけの戦い 一直線に走る バーの 少し前で、弧を描く 少しずつ バーの高さが 上がる 一人一人 クラスメイトが 脱落して ぼくと カイルの 一騎打ちに なった 残りの時間が 中途半端になって 先生も このまま二人を 見守ることにしたらしい ぼくが 先に、背面を 飛んだ わぁという 歓声が 上がる 一瞬 身体が 空を飛んだように、ふわりと浮く そのまま、マットに 落下する カイルは ぼくを見て、背面に 切り替えてきた きれいな 力強い フォーム ほぉっという ためいきが 漏れる ぼくは 彼に 見とれながら はじめて 他人に対して、対抗意識というものを 持った 負けたくない、そんな 漠然とした 思い そして、はじめて 他の存在を 強く感じた 次のジャンプは、もっと 腕を 振り上げて もっと 高い空を めざした ぼくは 風 いつのまにか、勝負よりも、この風を ずっと感じていたい そんな きもちに なってきた 目の前に 進む道は、上に続く 透明な階段 何度かの 接戦の末最後のバーを、カイルが ひっかけた瞬間 ぼくは なんだか 残念な気がした ずっと、続いたら よかったのに その時、カイルが 近づいてきて ぼくに 笑いかけた さわやかに 嬉しそうに そして ぼくらは 握手した まるで ぼくらは ずっとそうであったかのように 親友になった ![]() 今日の1冊 「風を見た少年」 C.W.ニコル著 夢を たくさん見る 冒険家、C.W.ニコル氏が 滞在8年目にして 日本語で書いた 小説 空を飛び、こころを 読みとることが できる 少年のものがたり 落合恵子さんの 解説が すてき (1987年版文庫) 玻璃の音*書房に お客さんが 来ていた
柚子さんが ぼくを 見つけて 手招きした この方が、フウチの詩集を 気に入ってくださった方よ あ、 ぼくは 思い出していた あの冬の日 1冊売れた ぼくの本 本が 売れると、代わりに 置かれる 檸檬その檸檬を もって 待っていた 柚子さんの姿 もし あの日、柚子さんが 現れなければ 引き返せないまま ぼくは あのまま遠くへ 行ってしまったかもしれない 初老の紳士は、にっこりして、握手を求めてきた 不思議な 気がした 目の前に 自分の本を 読んでくれた人がいる 書く時に、想定して いなかったこと ぼくが いつも 思い描くのは、柚子さんが 読んでいる姿 柚子さんが どう思ってくれるのか それだけ だったから あの本は、私が 気に入って いたのですが 孫が、もっと 気に入ってしまって、取られてしまいました だから、もう1冊 探しに来ました そう言った時に、赤いきのこ、モユルが 両手いっぱいに、大きな箱を 持って 入ってきた 「あ、おじいちゃん!」 「おお、モユル 学校は 終わったのかい」 モユルの おじいちゃん? モユルが お菓子の箱を あけて 取りだしたのは 赤い実が のった デザート だった モユル これ、パフェ? と聞くと (ぼくは、ちゃんづけ しないでと 彼女に言われて モユルと 呼びすてに している) パフェ じゃなくて、クープ なのと モユルは 力説した ムース・シャンティーイ ? に 一緒に 摘んだ 赤い実のジャムを はさんでいるんだって それは、甘くて すっぱくて 冷たくて おいしかった すっぱいのが 苦手な コリスの ルウは 時々 顔をしかめながら 嬉しそうに たべていた モユル! ぼくの本、よんだの? ぼくは、小声で たずねた うん、お姉ちゃんもね お兄ちゃんの 本棚に あるんだよ なんども 繰り返し 読んでるみたい あ、秘密だって、言われてるんだった! いたずらそうに、モユルが ニコリとした カイルが、ぼくの本を 読んでいる あの子は、あなたの詩集が 気に入って 何度か ここへ 来たらしいのです それで、隣の空き家のことを 調べてきて 一家で ひっこすことに なったのです おじいさんが やはり ニコリとして 言った あいつが、ぼくの詩集を もっている ぼくは、なんだか 混乱していた 雪崩が 起きるのを 感じた ![]() 今日の1冊 「粉のお菓子、果物のお菓子」 堀井和子著 クープ coupe は、フランス語で、パフェのこと 堀井さんは、パンや 粉に関する料理の 研究家 写真や 絵も すてきな本を たくさん 出版されています 彼女の 赤い実のクープは、生クリームに 卵白を加えた ムース・シャンティーイ をつかった レシピ
クラフティ・クララベルの カイルは
ぼくと 同じクラスに 転校してきた 彼は ひとなつこい性格であっという間に クラスに 溶け込み ずっと前から この場所にいる ぼくなんかより ずっと前から ここに いるみたいだった 彼は スポーツが得意で 太陽のように、目立つ存在だった みんなに 囲まれて、よく 笑っていた そして、時々 ぼくに 一瞥を 投げているように 見えた いつの時代も ぼくには ![]() 特別な ともだちは いなかった クラスの 誰とでも 話すけど 誰にも 気を許していなかった 昔から そうだった気もするし 両親が いなくなってから 取り扱い注意になった ぼくに 周囲が 気を使い過ぎていたから かもしれない きっと ぼくは、同じ年の連中を どこか心の奥で 蔑んでいるような 嫌な部分が あったんだ ぼくは、君たちとは ちがう 何が ちがうかも わからないままに そんな風に、自分と他者に 線を引いていた ぼくは 走るのは 速かったけど団体競技、特に球技が 苦手だった 一度 バスケットの試合で 誰に パスしていいか わからないまま ドリブルで 一人で シュートまで 決めてしまった時 周りは 喜んでいたけど チームメートは しらっとしていた それ以来、キーパーのいる競技なら、キーパー いない場合は、守り、ディフェンス側に いるようにした カイルは、サッカーや ハンドボールで、絶妙なパスを 出す 見ていて 気持ちがいいほどに、相手を 生かす ぼくには、できないこと 彼が 太陽ならば、ぼくは 月 しかも 青白く、冷たい 欠けた月 次の日、ここちいい風が吹く 日曜日
赤い服を着た 萌ゆるちゃんが 手に かごをさげて やってきた ぼくは君の兄さんに 怒られるから 一緒に行けないよ 場所は 教えてあげる と言った モユルちゃんは とても 悲しそうにしたあと お兄ちゃんに 内緒でもだめ? と聞くので まあ、いいやと 一緒に 赤い実を 摘みに行くことにした あのね、 今、パパンと お姉ちゃんは ラズベリーのタルトを 作っているの だから、私は、自分の! (ここで モユルは、自分の を強調した) 赤い実のジャムが 作りたいの だって、私、いろいろできるのに みんなで、こどもだと 思っているのよ! その言い方が かわいらしくて ぼくは 笑ってしまった ぼくが 連れて行った 草原には 木莓のラズベリーが 群生していた小さなさくらんぼが 散らばっていた まるで そこ一体が 自然のケーキのように ぼくは 元気いっぱいに 赤い実を 摘んでいる 小さな女の子を見て 粉雪さんを 思い出していた まるで 対極にあるような、白い女の子 光を溶かしてしまいそうな うす桃色の頬 昨日、あの少年に 前のように 手を出すなと 言われた瞬間から ぼくの中には 粉雪さんが あふれていた そのせいか、昨晩、夢に彼女が現れた 粉雪さんは 冷たい風が 吹く中 スケートをしていた 近くに 行こうとすると、強い風が吹いて 近寄れない 声をかけても 振り向いてくれない そんな夢 ぼくは 今でも 一人になると 冬の日々のことを 思い出してみる いつもは 鍵をかけた小箱に しまってある 彼女のこと どうしてだろう 一緒にいた時よりも それは、あざやかに 甦り すぐそばに 彼女が立っているような 錯覚すら覚え ぼくの はじめて 失った恋 こんな風に 心に残るなんて、知らなかった あの少年は、どうして、知っている ![]() 今日の1冊 「西の魔女が死んだ」 梨木香歩 揺れ動く 思春期の 少女の ものがたり 自分の世界の強さは 他の世界では 時に弱さばかりが目立ってしまう おばあちゃんと作るジャム、摘んで 作ってみたくなります 粉雪さんのいた家に、新しい家族が やってきた
ある晴れた 土曜日のこと 玻璃の音*書房で、カフェ・オレを 飲んでいたら 船乗りのような 風貌の、髭を たくわえた人が 挨拶にきた 隣で デザートの店を オープンします店の名は 「クラフティ・クララベル」 です と、ちょっと 外国調の 発音で ゆっくり話した 私の国は、フランスなのです あとから こどもたちが 伺います にこにこしながら みんなと 握手をして 帰って行った 少しして ぼくより 少し 年上の女の子が やってきた 栗色の髪を うしろで ふんわりと 結っている 私は エミルといいます 今、遠くの お菓子の学校に 通っているので 私は、明日、そちらに もどります 弟と妹を よろしく お願いします やさしい声と 瞳をもった 少女は すこし顔を傾けて はにかみながら あいさつをした 一人ずつ やってくる 家族みたいだね ぼくと クウヘンさんと 柚子さんは 不思議だねと、なんだか おかしくなってしまった 次に 現れたのは、赤い服を着た 小さな女の子 お姉さんの エミルとちがって 真っ黒な髪を まあるく きのこのように 切り揃えていた モユルと いいます モユルは、萌ゆる と書くのです くりくりの目で、ものおじせずに、にっこりしながら 小さな紙に、一生懸命 書いた なまえを 差し出した そして、女の子は、ぼくに向かって あの、赤い実を 摘みたいのさくらんぼ、ラズベリー、クランベリー、どこかにありますか と聞いたので、うん、知ってるよと 答えた では、明日、案内して下さいと、モユルは 帰っていった 最後に ぼくと 同じ年くらいの 少年が やってきた 身長も ぼくと 同じくらいで 髪は 短く つんつんしていた はっきりとした 勝ち気そうな目を していた 名は、カイル だって 彼は、クウへンさんと 柚子さんに 丁寧に 挨拶したあと ぼくの耳のそばで、小さく、でも はっきりと 「前みたいに、オレの姉さんと、妹に 手を出すなよな!」 と言った それだけ言うと、ぼくを 睨んで、去っていった 前みたいに? ![]() 今日の1冊 「パトリス・ジュリアンのデザート」 表紙は おばあちゃんの さくらんぼの クラフティ パトリス氏が、6つのグループに分けて 家庭で作れる 42のレシピを 書いています 林檎の花は 咲きほころび そして、風にのって 散りゆき はじめる くる日もくる日も、柚子さんと ルウと ぼくは 林檎の木の下で 花を 眺めていた 柚子さんは、両てのひらで そっと 舞い降りてくる 花びらたちを すくっていた ルウは、散りゆく花びらを キャッチしようとしてそこら中 飛び回って 小さな風を おこしていた ぼくは、寝ころんで 空を見上げていた こうして、空と一緒に 花を見つめていること こうして、すきな人たちと 一緒にいられること やさしい風に 包まれている午後 ぼくは 最近 しあわせな情景にいると この瞬間、この景色を、焼き付けておこうと 心で シャッターを切って、自分の中に 残そうと試みる 絶対に 忘れない ここに、まだ 両親が 存在していた頃 ぼくは まだ 無邪気な こどもで いつまでも こういう時代が 続いていくと 思っていた いや、そんなことを 思うまでもなく それが 自然だと思っていた 疑いもなく それが、壊れた 瞬間から ぼくは シャッターを 切るようになった いつまでも 同じではない この瞬間は 永遠ではない シャッターを 切ったあと ぼくは やっと その場所に 降りることができる 空中に 飛んでいった ぼくを 取り戻し ぼくが ぼくである 実感を こうして 心にしまった 情景を ぼくは 一人になって 取り出してみる 柚子さんが していたように 手のひらにのせて 心の中から 掬いだすように ![]() 今日の1曲 「Worldwide」 everything but the girl イギリス出身の2人組 Tracey Thorn + Ben Watt 91年発表の このアルバムは 春になると いつも 聴きたくなります やさしくて あったかくて 野原を スキップしているような
今日は、柚子さんの 誕生日
そして、クウヘンさんと 柚子さんの 結婚記念日 三年前、林檎の花の 満開の下 森の教会で 二人は 結婚式を挙げた 花が いっぱいの庭での パーティは それは はなやかで 二人の 大学時代の友だちが 集まって それは にぎやかだった さくらんぼの実が ことりと 落ちてきて ぼくと 粉雪さんは、それを みんなに 配ったりした クウヘンさんの お父さんは まだ 怒っていたから 欠席だったけど 離れて 暮らしている お母さんと お兄さんは やってきた そして、相変わらずの 明るい豪快さと 偏屈な不機嫌で 周りの人を 煙に巻いていた もしも クウヘンさんの おじいちゃんが 生きていたなら 柚子さんのような 花嫁を見て ものすごく 喜んだだろうな きっと、ローライを覗いて、嬉しそうに フィルムを 回すんだ 不思議 だったのは 柚子さんの 親戚が 一人も いなかったこと クウヘンさんに あとで 聞いたことが あったけど 柚子の両親は、遠いところにいるから と ちょっと、言いにくそうに していた あの日、ぼくの両親も、あの場所にいて ぼくと 一緒に 笑っていた 朝方、ぼくは 母と 庭に咲く マーガレットの花を 摘みリボンをかけた花束にして、柚子さんに 贈った 柚子さんは、それを 抱きかかえて 嬉しそうに 頬によせてから ぼくを ふんわり 抱きしめてくれたんだ まるで 一瞬の風のように ぼくは それだけ まだ 小さかった 柚子さんは、一本だけ マーガレットの花を 抜いて やはり ちいさな 粉雪さんの髪に かわいい 花飾りにして 結わえてあげた とても似合っていて、花の精のようだったね ![]() 今日、ぼくは できあがった本を もって、玻璃の音*書房に行った 柚子さんは、あれから 少し 大きくなった ぼくを 抱きしめてはくれなかったけど 代わりに ぼくが贈った本を、大切そうに 抱きしめた Photo * マーガレットじゃないけど、白くて 可憐な花
コリスの なまえは、ルウという
ルウといっても、シチューや カレーの ルウではなくて ハーブの 一種 ある日、柚子さんと コリスと 一緒に 玻璃の音*書房の 裏の庭で のんびり カフェ・ラテを 飲んでいた すると 急に、柚子さんがね、リスちゃん、なまえが ほしくない? と 言いだした コリスは、とても 嬉しそうな顔をして うなずいていたから ほんとは、なまえが ほしかったんだね 二人で 考えてみたけど、なかなか 思い当たらない 柚子さんが 庭を見ながら、次々に ハーブのなまえを 言った バジル、 オレガノ、 ディル コリスは 首をかしげた ローズマリー コリスは ぶんぶん 首を振って、ちょっと怒っていた そうだね、男の子だからね ルウ その時、コリスが 満足げに うなずいた だから、決まった コリスの なまえは、 ルウ ルウは、嬉しそうに しゃぼん玉を 吹いた うす桃色の 大きな玉を 作って 自分の顔を 映して、にかにか 笑ってみていた そして、不思議なダンスで くるくる回った ![]() 今日の一葉 ハーブ名 * ルウ rue 地中海原産・ミカン科 強く、ぴりっとする苦みの葉 あざやかな黄色の花 ピクルスや グラッパ酒に 風味を保たせる 葉を噛むことで、頭痛を やわらげる作用がある ミサの聖水に使われることから 「悔い改めのハーブ」 と呼ばれる
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